【買わねぐていいんだ。】9話大切な友人の死

第2章目指せ、つばさレディ!

◆大切な友人

 私にはゆうこちゃんという、幼馴染の友人がいました。最初に会ったのは幼稚園のとき。ゆうこちゃんが我が家の向かいに引っ越してきたのです。そして、同い年だった私とゆうこちゃんはすぐに仲良くなり、一番の友達になりました。
 ゆうこちゃんは妹がいたこともあり、とてもしっかりした子でした。一緒にいても「何して遊ぶ?」と聞けば、あとは全部ゆうこちゃんが決めてくれます。身体も小さく引っ込み思案だった私にとって、ゆうこちゃんは同い年ながら頼れるお姉さんのような存在でした。
また、どちらの家も両親が共働きだったので、幼稚園や学校が終わるとよく互いの家へ行って遊んでいたことを憶えています。
 高校からは別の学校になりましたが、それでも親交はは続き、よく電話したり遊んだりしていました。しっかり者のゆうこちゃんは、私と違い高校卒業後はすぐに就職して社会人になりました。
 ゆうこちゃんが社会人になって1年目の冬。私はやっと今の仕事を始めたばかりで、毎日一生懸命新幹線に乗っていた頃のことです。あと数日で初めてのボーナスがもらえると、ゆうこちゃんは電話で嬉しそうに話していました。
その電話の翌日、ゆうこちゃんは交通事故で亡くなりました。
ちょうどそのとき私は新幹線に乗っていて、母親から携帯にかかってきた電話でゆうこちゃんの死を知りました。昨日電話で話したばかりのゆうこちゃんが死んだなんて、そんなこと信じられない・・・。下りの新幹線に乗っていたので山形についてすぐにゆうこちゃんの家へ向かいました。
私はそれまで、身近な人の死を経験したことはありませんでした。大切な人が死ぬということはどういうことなのか、考えたこともないほど私もゆうこちゃんも若かったのです。
 ゆうこちゃんの家では、妹が大きな声をあげて泣いていました。となりでご両親、おじいちゃんおばあちゃんも泣いています。娘を失った親の姿が悲しすぎて、私はそのときやっと「本当にゆうこちゃんは死んでしまったんだ・・・・」と実感しました。
 「これまで私は、大人に反抗して何でもわかっているつもりでいた。でも、実は何もわかっていなかったんじゃないか。こんなにも命は儚いのに人ってもっともっとすごいのに、何も知らないで反抗していたんじゃないか。私はゆうこちゃんのぶんまで一生懸命やっていこう。一生懸命に生きていかなくちゃいけないんだ」
 ゆうこちゃんの死で、私はそんな覚悟を決めました。友人の早すぎる死は、私にとってとてもつらいことでした。でもそこで、「強くならなくてはいけない」という使命のようなものを感じたのです。
 この仕事を始めてから、たくさんの困難やつらいことがありました。そんなとき、「私にはゆうこちゃんがついてくれている。だから大丈夫」と思って乗り越えてきました。もう一緒に年を取ることはできないけれど、私にとってゆうこちゃんはずっと大切な親友です。
 だから、私はがんばって生きるよ。

【買わねぐていいんだ。】9話「私のアイデンティティ「ageha」

第二章目指せ、つばさレディ!

◆私のアイデンティティ「ageha」

『』 これまでお話ししてきたことからもわかる通り、高校生まではコギャルでした。では現在は?いま、私はage嬢のファッションが大好きで、休日にはage嬢の格好をしています。
 age嬢とは、『小悪魔ageha』という雑誌から生まれたファッションを楽しむ女の子たちのことで、キャバクラ嬢の格好がお手本です。フリフリのフリルやキラキラのラメをちりばめた洋服やメイクをして、髪型はカーラーで巻いて「盛る」。とにかく派手でかわいい格好が好きなのです。
 そんな恰好をしているため、仕事中の私しかしらないお客様に偶然外で会っても、あまり気付かれることはありません。講演会などに呼んでいただいても、私服で会場に入るとまさか講演者だとは思われず、だれからも気づかれることなく「茂木さんが来ない!」」と大騒ぎになることもよくあります。

 休日はまず美容院に行って髪型をセットしてもらうことから始まります。もちろん周りはこれからご出勤のキャバクラ嬢ばかり。髪型のセットで1500円かかるのですがお店に勤めているキャバクラ嬢はお店から500円のサポートが出るらしく、自分で払うのは1000円だけで済むそうです。
 私はいつも1500円払ってセットしてもらうのですが、たまにキャバクラ嬢と間違われて1000円のお会計で済んでしまうことも。そして好きな格好、好きなメイクをして友達と遊びに出かけるのです。

 たった一日の休日のために、どうしてそこまで時間とお金をかけてオシャレするのか?みなさんは不思議に思うかもしれません。でも私にとって、age嬢のファッションを楽しむことは、「自分を取り戻す」ために大切なことなのです。
 私は仕事でお客さまと接するとき、そのお客様の色に染まってしまいます。人にはそれぞれの「色」がありその色に染まることでそのお客さまとの距離がぐっと縮まる。そうやってひとりひとりのお客さまの色に染まることを、私は仕事をするうえでとても大切にしています。だからこそ私は常に透明でありたいと考えています。
 ですが、毎日透明になっていろいろな色に染まっていると、次第に「自分はどんな存在だったっけ?」という気持ちになってしまう。だんだんと気持ちがずれてきて、自分がどんな人間なのか、どういうことをやりたいと思っているのかがわからなくなってしまう。
 そんなとき私は、思いっきり自分の好きな格好をしてプライベートを楽しみます。
「今日はこの服を着よう」
「今日はピンクの口紅をしょうかな」
 そう考えることで自分の主張を取り戻していきます。私にとって、age嬢のファッションをすることは大切なアイデンティティのひとつなのです。

【買わねぐていいんだ。】8話「初めて知った「働く」ということ

第二章目指せ、つばさレディ!

◆初めて知った「働く」ということ

面接の会場には、私以外にも10人ほどの女の子がいました。それぞれが面接官から質問を受け、面接は進んでいきます。
「この子はもたなそうだな」
 私は「ん?誰のことをいっているの?まさか私じゃないよね」と、どの子のことだろうと周りを見回して、あることに気付きました。
(・・・・私だけなんか違う?)
 違うも違う、大違いです。なぜなら、ほかの子たちがみんなスーツで面接に来ていたなか、私だけは普段のコギャルの格好のまま。さらにはみんなは「一緒にトイレに行かない?」「一緒にご飯食べようよ」と声を掛け合っているのに、私だけがポツンとひとりでいたのですから。
 面接官からしてみたら、こんな子が仕事を長く続けられるわけがないと思うのも当然でしょう。しかし、私はこのなかの誰よりも「この仕事をやりたい」と強くおもっていることにだけは自信を持っていました。それでも面接官にいわれてしまったことと、働くということへの自覚が足りなかった自分への悔しさが心に広がります。
「働くということは、格好がまず大事なんだな」
 ここへきてやっと、私はそんな当たり前のことに気付いたのです。面接では通り一遍の事を聞かれ、私は「頑張ります!」とアピールすることだけ。「合格発表は電話でします」といわれ面接は終了しました。
 帰りの車のなかで、「ああ、たぶんダメだべなあ」と思いながら悔し涙があふれてきました。やりたいことも見つかって、初めて「働きたい。働かせてもらいたい」と思った会社。でも会社側から「あなたは入れません」といわれてしまえばそれでおしまいです。これからのことも考えながら、暗い気持ちで家に帰りました。
 しかし数日後、意外にも合格の電話が掛かってきたのです!
「おめでとうございます!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「でもね、茂木さん、条件があります」
「何でしょう?」
「まず、髪の毛の色を黒くしてきてね。あと肌の色も白く塗ってきてくれるかな」
 私はコギャルの格好だけでなく、髪の毛は茶色にして日焼けサロンで肌を黒くしていたのです。改めて自分がいろいろなことに無自覚のまま、面接を受けていたことに気付きました。
「わかりました。これからよろしくお願いします!」
そうお礼をいって電話を切り、私はすぐに化粧品を買いに走りました。
 会社が受け入れてくれたこと、夢だった仕事ができる喜びで胸がいっぱいで「がんばろう!やったー!」と大はしゃぎだったことを憶えています。
 その日の夕食では、「久美子よー、新幹線受かったんだず」という私の話を両親はニコニコと聞いてくれていました。

このとき、私は初めて「働いてお金を貰うということ」はどういうことかを知ったのだと思います。高校生のときまでは、好きな格好ををして先生に注意されても「うるせんだず!」の一言で済ませていました。学校の規則の注意も、それを守るかどうかは自分で選んでいた。
 しかし、今度は私が会社に選ばれたのです。「髪の毛は黒くしなさい」ということは、働いてお金をもらうなかのひとつ。自分で選ぶことではありません。
「これがお金を貰うっていうことなんだな」
 このとき初めて、私は社会人になりました。
 それまで父親や周りの大人に対して「こういう大人になりたくない」という反抗心を持っていました。しかしこのとき、口うるさいと感じていた大人からの言葉は、社会人になるために必要なことだったんだということも知ったのです。
 次の日には、両親が親戚中に「久美子が就職先が決まった!アルバイトだけど、ア安心したよ」と報告していたのを憶えています。急な展開に、両親も安心したのでしょう。