【買わねぐていいんだ。】2話 「堀ちえみに憧れた子供時代」

第一章「ばかばっつ」な末っ子

 ◆堀ちえみに憧れた子供時代・・・・

 私は山形新幹線の車内で、お弁当や飲み物を販売したり、お客さまにご案内をする販売員です。株式会社日本レストランエンタプライズにアルバイトとして採用されて12年。現在はチーフインストラクターという役職をいただき、販売員の仕事とともに後輩の指導を務めています。
 どうして私が新幹線の車内販売員になったのか。きっかけは、子供の頃に観たテレビドラマでした。

 私は山形県天童市で、3人兄妹の末っ子として生まれました。7つと5つ離れた兄が2人おり、私は小さいころから優秀な兄たちと比べられてよく「おめえはほんてん(本当)にばかばっつだにゃあ」と言われていました。「ばかばっつ」というのは山形の方言で、「頭のいい悪い、一番下の子」というような意味です。
 小さいころは人より身体が小さくて食も細い、引っ込み思案だったそうです。ひとつ憶えているのは、幼稚園の発表会でのこと。みんなで太鼓を担いで立ち上がることもできない。みんなが歩きながら太鼓を叩く練習をしている横で、私は立ち上がる練習ばかりしていました。
 性格も人見知りが激しくて、アイスクリームが食べたくても「これください」が言えない。ちゃんと「おいしい」や「ありがとう」をいえない私を見て、両親は「せめて人並みに育ってほしい」と願っていたようです。
 いろいろな経験をして、強い人間になってほしい。ずば抜けていなくていいから、健康で人並みに。そんな両親の思いもあって、私は小さいころから色々な習い事に通っていました。水泳とバイオリン、バトン、ピアノ。なかでも水泳とバトンは、高校を卒業するまで続けていました。

そんな習い事へ行く夕方に、家で観ていた再放送のテレビドラマが『スチュワーデス物語』。主演のキャビンアテンダントを演じていた堀ちえみさんを見ていて、一直線にがんばる彼女の姿に胸をときめかせたことをよく憶えています。
 人よりもできない「ばかばっつ」な自分と、「ドジでまぬけ」な主人公を重ねて見ていた、ということもあるのかもしれません。私はこの時はじめて、「乗り物でお客様に楽しい時間を過ごしてもらう」というお仕事に憧れたのだと思います。