【買わねぐていいんだ。】37話 中堅販売員の「自己流」への対応 

第七章 人を育てること、伸ばすこと

中堅販売員の「自己流」への対応

一通りのマニュアルや業務手順を覚えた3~4年目ぐらいの販売員は、次第に「自己流」の方法を作ってしまうことがよくあります。たとえばコーヒーの販売について。
 マニュアルでは、コーヒーをお渡しするとき、最初に「お砂糖ミルクはお付けしますか?」とお客さまに伺い、お砂糖ミルクをテーブルに置いてからコーヒーをお出しします。
 これにはきちんとした理由があるんです。コーヒーを倒してしまう危険がある。そのため、危なくないお砂糖ミルクを先に出し、最後に必ず「熱いのでお気をつけください」といいながらコーヒーをお出しするのです。
しかし、業務に慣れてしまい、「お砂糖ミルクお付けしますか?」と伺っているあいだにもうコーヒーを出してしまう、という販売員もいます。なかにはお客さまにお伺いするのもめんどくさくって、何も聞かずにお砂糖ミルクを出してしまう販売員も。本当は大事な意味のあるマニュアルの手順も、慣れてしまい「めんどくさいから」という理由で守られていないことがあるのです。
 そんな販売員には、「どうしてお客さまに『お砂糖ミルクお付けしますか?』って言わないの?」と聞いてみます。かつて私自身がマニュアルを教えたのだから、知らないはずはありません。きちんと教えたのに、それをやってもらえないということは、とてもショックなこと。本当は「前に教えたのに、なんで?」と責めたい気持ちもあります。
 ですが、その子も販売員として、自分なりにやってきた実績があるはずです。ですから私はまず、「どうしてそういうやり方をするのか?」と理由を聞くようにしています。たいがいの子は「忘れちゃっていました」「間違っておぼえていました」とごまかそうとするので、そこで改めて「そっか、じゃあもう一回教えるから、しっかり覚えてね」といってまた教えるのです。
 こういったことが1度ならまだしも、2度も3度もあると、「どうしてあの子に伝わらないんだろう」と涙が出てきてしまうこともあります。「そうすればわかってくれるのかな。今度ははこういってみようかな」と、いろいろと考え、ときには本人に「どうして、私はあなたにうまく伝えることができないんだろう」といって泣いてしまうことも。これには、泣かれた後輩もびっくりしてしまうようです(笑)
 きっとそういう子たちは、「自分の間違った手順でやっている」とわかっているはず。
それでも何度も注意しても直らないときは、「これは間違ったことだから、新人や後輩には教えちゃだめだよ」とだけいいます。
「あなたは後輩の鑑なんだから。先輩のその姿を見て、新人たちはどう思うかな。私がいいたいのはそれだけ」
 もうこれ以上は、私から言うことはできません。業務中のすべてで、その販売員を見張っていることはできないのですから。あとは、ひとりひとりの「仕事に対する姿勢・考え方」に根気強く付き合っていくしかありません。