よく顔を合わせる常連さんでも、お会いすることができるのは新幹線のなかだけ。いつも決まった時間に乗っていても、突然顔を見なくなるお客さまもいます。
4~5年前のこと。いつも仕事で乗車されるサラリーマンの常連さんがいらっしゃいました。まだ50代でご自分の会社を持ち、バリバリと仕事をこなしているようです。顔を合わせるとお話しをするようになっていたのですが、あるときからプッツリとお会いしなくなってしまったのです。
会社はご夫婦でやられているようで、それまで奥さまとも何度かお会いしたことがありました。ある日、その奥さまが10代後半の男の子と一緒に乗車されており、久し振りにお会いしたので、お声をお掛けしたのです。
「こんにちはー。あれ、旦那さんは?最近見ないからどうしたのかなと思ってたんだ」
すると突然、奥さまがボロボロと大粒の涙を流し出したのです。「どうしたの!?」と私がお声をお掛けしても、胸が詰まってなかなか言葉にならないようです。しばらくしてやっと、
「実はね、うちの旦那、一か月ほど前に亡くなったの・・・・」
突然のことに私も呆然自失。どうやら急な病だったようです。とても元気でイキイキとお仕事に向かわれていた姿を思い出し、私も涙が止まらなくなりました。隣にいた男の子は、息子さんだそうです。
「いつも父がお世話になっていました」
そんな息子さんの言葉にまた涙。周りも頼みず、奥さまと一緒になってワーっと泣いたことを憶えています。
そのときはまだ「男の子」といった感じの息子さんでしたが、4~5年経ったいまはもう立派な青年。お父さんが亡くなった後、奥さまが会社を切り盛りし、息子さんがお母さんをサポートしておふたりで頑張っている姿が亡くなったお父さんに重なって見えます。
いまでもよくおふたりで新幹線に乗られて、お声を掛けていただくことがあります。
「こんにちはー。今日はどこまで?」
「今日は仕事で、大阪まで行ってくるんだー」
そんな会話をしながら、悲しみを乗り越えて、親子で仲良くがんばってほしいと思うのです。