【買わねぐていいんだ。】27話 早く回るための試行錯誤

第五章 必殺技誕生

◆早く回るための試行錯誤

を 新人だった頃、お客さまから「おっせえだず!」とお叱りをいただいたことがありました。まだ販売に回るだけで精一杯、「早く販売が来てほしい」といったような、お客さまの満足についてなかなか気を回せずにいたのです。しかしこのお客さまの言葉から、わたしは「ああ、そっか」と気付きました。
欲しいときに欲しいものがなければ、そこで、もういらないとなってしまう。それではお客さまの満足にはならないんだな。自分は新人だから一生懸命にやっているんですっていう言い訳はできないんだ・・・・・。
 そう思った私は、少しでも早く回れるにはどうしたらいいか、いろいろと考えるようになりました。まず思いついたのは「早歩きで行こう」ということ。車内販売の本来の目的もわすれて、誰も私を止められないぐらいのスピードで回ってみたのです。
 結果はもちろん誰からも止めてもらえずに、大失敗。お客さまが声を掛けるのをためらうぐらいのスピードで回っていては本末転倒です。
 次に考えたのが、「お客さまへのご案内を早口にしょう」。車内を回っていると、よくお客さまから「次の到着は何時頃?」や「トイレばどこですか?」といった質問をいただくことがあります。そのときのご案内を早口でするようにしてみたのです。
「すみません、トイレさどこあんの?」
 こう聞かれた私は、トイレの方向を指さしてただ「あっちです!」とだけお客さまにいって販売に行ってしまったのです。もちろんお客さまはあまりのことにキョトンとしたお顔。これはさすがにすぐ「あっ、失礼なことをしてしまった!」と気付き、急いでお客さまのもとへ引き返しました。
「お客さま、ごめんなさい。前に別のお客さまから回ってくるのが遅いと言われて、いまどうにか早く回ろうと練習しているんです。早歩きしてみたり、案内も早口でやってみたり。だけどさっきの案内はすごく冷たかった。反省しています。申し訳ありませんでした」
 自分の状況を説明して、改めてご案内しました。そのお客さまはとても優しい方で、「そっかーがんばれよ」と言ってくださいましたが、この方法もお客さまにとって満足のいく接客ではないとわかりました。
 そこで気付いたのが、「お客さまの時間を削ろうとしては、満足のいく接客はできない。自分の時間で削れる時間はないだろうか」ということ。改めて新幹線での3時間半のなかで一番時間がかかっていることは何かと考えたとき、まず思い浮かんだのはお金の受け渡し時間でした。