第7章 人を育てること、伸ばすこと
◆叱る理由をきちんと伝える
販売員になって一年目ぐらいの頃のこと。新幹線のなかで遊んでいる子供に、ご両親が「静かにしなさい」と叱るところを見て、「あれ?」と感じたことがありました。
その親御さんは、「こら、車掌さんに怒られるからやめなさい!」とおっしゃったのです。それまでにも、こういうふうに叱る親御さんを何度か見たことがありましたが、そのとき初めて違和感ををおぼえたのでした。
「あれ、その叱り方はなんか違うんじゃないか?」
たとえば、人の物を盗むのは、「警察に捕まるからやめなさい」ではなくて、「盗られた人が困るし、悲しむからやめなさい」と教えるべきだと思うのです。「車掌さんに怒られるからやめなさい」では「車掌さんがいなければ怒られないからいい」ということになってしまう。そうではなく、「周りのお客さまに迷惑がかかるから、やめなさい」と教えなくては、子供は何が悪いことかがわからなくなってしまいます。
このときに、「ああ、自分も後輩を叱るとき、怒られる原因や理由をきちんと伝えなくてはいけないんだな。私はその理由をきちんと教えるようにしよう」と思いました。
また、その叱り方もとても大事。怒られれば落ち込み、褒められれば嬉しくなるのは誰でも同じことです。ですから、私は叱りたいことがあったときには、その前にその相手の「いいところ」を見つけて、まず褒めるようにしています。
人は相手の嫌なところばかりに目がいってしまいますが、どんな人にも必ずいいところがあるもの。「今日のお化粧いいね」や「声に元気があるね」といったことなど、どんな小さいことでも、相手のいいところを見つけて、それを褒めたあとに「でも一つだけお願いがあるんだ」と、直してほしい点を伝えるようにしています。まず頭から叱っては、あとで褒めたところで、相手は恐縮してしまうばかりです。
また、直してほしいところをいくつも並べたててしまえば、相手も素直に聞き入れる気持ちにはならなくなります。直してほしいポイントをひとつに絞って相手に伝えることも大切です。
私もかつては、褒められて伸ばしてもらいました。褒めた後に直してほしいところをポイントで伝えることで、相手の心にすんなりと伝えたい言葉が入っていくのではないでしょうか。とくに大人になってからは、そう思うようになりました。