第五章 必殺技誕生!
◆窓の向こうは情報の宝庫
毎日新幹線に乗っていると、自然と外の景色を記憶するようになります。
「あ、あの看板が見えたから、あと10分ぐらいで次の駅だな」
といった具合に、外の景色で現在のだいたいの時間や次の駅の到着時間が分かるのです。よくお客さまから受けるのが「あと何分で着きますか?」というご質問。もちろん時刻表と時計の所持は会社から指導されていますが、私はよく景色を見ながらご案内することがあります。
「もうすぐ新幹線が高速道路の上を通りますよ。そこを過ぎれば、大宮駅までだいたいあと3分ぐらいです」
普通に時刻表を見ながらご案内することもできますが、あえてこうやって景色を見ながらご案内することで、お客さまに旅の気分を味わってもらえれば、と考えています。
こういったご案内から、外の景色を楽しむきっかけとなり、お客さまも喜ばれることが多いようです。また、外の景色が時計代わりとなり、「あの景色が見える頃には、何号車まで回っているようにしよう」といった目標を立てながら歩いています。時計を見て目標を立てるより、「あの景色が見えるときに、私はあそこの号車で販売をしている」と、目標をイメージしやすいのです。
窓の外で情報となるのは、景色だけではありません。ホームに入っていくとに、瞬時にこれから乗車するお客さまの人数を把握するということも。東京駅では、ホームに向かう際には、荷物やお客さまの客層を見ています。途中の新庄、山形、福島、郡山といった駅では、新幹線がホームに入る一瞬で見える情報もキャッチするようにしています。
たとえ接客中でも、目線はホームをを捉え「あ、お客さま。1,2,3,4・・・・」と頭のなかで乗車するお客さまを数えます。こうすれば、お客さまが立っていた位置から乗車する号車を予測し、自分がいまいる号車以外の車内状況も想像することができます。
「あ、17号車に10人乗ってきた。自由席が混み始めたな」
「となりの号車から何人か降りたみたい。さっきホームに乗車するお客さまが5人立っていたから、いまとなりの号車はだいたいこれくらいの人数だな」
といったように、ホームで乗り降りするお客さまの数から、現在の車内の状況を想像します。そして、それをもとに「団体のお客さまがいたから、お弁当を増やそう」「サラリーマン風の人がたくさん乗ってきたから、ビールを持っていこう」といったように、ワゴンの品揃えを判断するのです。
一度車内の状況を確認しに回ってから、基地へ戻って品揃えを変えていたのでは、大きな時間のロスになってしまう。窓の外の情報を一瞬でチェックし、現在の状況を想像する。その一連の作業によって、お客さまにより大きなご満足をご提供することができます。
このように、一見何でもない外の景色が、私にとっては大切な情報源となっているのです。