毎日のように新幹線に乗っていると、具合の悪いお客さまがいらっしゃる時もあります。
ある日の乗車中、米沢ー福島間を走行していて、あと10分~15分で福島に到着するころでした。16号車の自由席に車内販売に入ると、おじいちゃんおばあちゃん、お父さんお母さんの4人家族のお客さまが座っていました。ちょうど米沢から名物の牛肉弁当も入ったところで、「弁当食うべ!」とお声を掛けてくださいます。
おばあちゃん、お父さんお母さんの3人がワゴンを見ながら「どれがいいべかな?」「どんなのがあるの?」と話して話しているなか、なぜかおじいちゃんだけが無反応。「おかしいな?」と思い、おじいちゃんの顔を覗き込んでみると、顔が真っ青で意識がない状態になっています!思わず私が「おじいちゃん!!」と叫び、そこでやっと3人も「え?」と気づいたのでした。
家族が「おじいちゃん!おじいちゃん!」と声を掛けて揺らしても、起きる気配はありません。即座に命の危険を感じた私は、11号車にいる車掌を呼びに行きました。
私たち販売員は、こういった事態のときに新幹線から降ろすべきかといった判断をすることはできません。あくまで安心をしていただけるように努めるだけで、最終的な判断は車掌が決めるのです。
その時はまず一番後ろの17号車に行き、「お客さまのなかでお医者さまはいらっしゃいませんか!?」と大きな声でいいました。車掌を呼びに行くあいだにも、お医者さまを探せればと思ったのです。するとそこには偶然見覚えのある鉄道警備隊がいました。すぐに事情を説明し、不安になっているご家族についていてほしいついていてほしいとお願いをしました。
そして11号車の車掌のところへ。向かいながらも「お医者さまはいらっしゃいませんかー?」と声を張り上げていたところ、途中の号車で運よくお医者さまを発見! すぐにお客さまのところへ向かうようお願いをしました。
もう間もなくすると、福島へ到着してしまう。そうすると東北新幹線との連結作業のため車掌は鍵のかかった運転台に入ってしまうのです。病院に搬送するにしても、福島で降ろすことができなかったら、次の駅まで間に合わないかもしれない・・・・。迫りくる時間に必死になって車内を走りました。
やはり車掌室には車掌はおらず、グリーン車の奥にある運転台のドアを一生懸命に叩きました。
「車掌さーん、助けて、助けて!急病人だよー!」
切羽詰まった私の大声にグリーン車のお客さまもびっくり。それは大変だということで、一緒になって車掌を呼んでくださいます。やっと気づいた車掌が、「どうした?」と出てきて、事情を説明しました。
車掌に伝えられた安心感で気が緩み、腰が抜けそうになってしまいましたが、まだ事態は収まっていません。すぐにおじいちゃんのところまで行くと、おじいちゃんは目は開けてはいたものの、反応は鈍く、まだ危険な状態にあるようでした。お医者さまの「すぐに病院に搬送したほうがいい」という判断で、おじいちゃんとご家族は福島で降りていきました。
車掌の素早い行動で、すぐに救急車が手配されたようですが、新幹線は10~15分遅れで出発。その後おじいさんが元気になられたかどうかは、わからずじまいです。どうか無事であった、と願うばかりです。
・ このように、新幹線のなかではびっくりするような急病人に出遭うこともあります。あるカップルの女性が、具合が悪いということで伺うと、何と妊娠されていて陣痛が始まっていたり!
「ええっ!どうしょうどうしょう」とあわてていると、女性の方が「あ、やばい。破水した・・・・」とポツリ。もうパニックになりながら、どうにか郡山の駅で病院に搬送することができました。
また、こんな怪談話のようなことも・・・・・。
ある日の乗車中、なぜかデッキに大量の血が! 病気やケガをしたお客さまはいらっしゃらないように見えましたが、どうしてそこに血があるのか、結局わからずじまい。もしかしたら何かの事件だったのか、それとも具合の悪いお客さまがいたのか・・・・。怖くて怖くて、ひとりひとりのお客さまが大丈夫か、確認しながら回っていたのを憶えています。
楽しい旅行やビジネスでのひととき、全員のお客さまがどうにか無事に過ごされますようにと願っています。