【買わねぐていいんだ。】コラム 倒木事故で新幹線がストップ

高架を走るほかの新幹線とは違い、在来線の路線を使って走る山形新幹線は、事故などで止まってしまうことがあります。また、途中には踏切もあり、冬には雪で線路が見えなくなってしまうことも。そのため、踏切の信号を車の信号と間違えた自動車が、道路だと思って線路内に入ってしまったことも・・・・・。あるときは牛が迷い込んだという、いかにも田舎らしい出来事もありました。
 一度、私が乗務していた時に、倒木による停電で新幹線が動かなくなってしまう事故が起こったことがありました。2007年のお正月明け。始発に乗っていたのですが、赤湯駅近くで突然新幹線が急停車したのです。
急な停車でワゴンごと飛ばされてしまった私を、お客さまたちが助けてくださいました。
すぐワゴンを置いて、ケガをしたお客さまがいないか確認しながら、車掌のところへ向かいます。どうやら倒木が電線を切ってしまい、木をどかしたところで新幹線を動かすことはできなくなってしまったようです。車内にバッテリーがあるとはいえ、空調や電気は徐々に止まっていきました。
 真っ暗な中で車内を回り、「今から寒くなりますから、みなさんコートを着てください」とお声をお掛けしていきます。一人で乗っていた女の子や、不安そうにしていた子供のお客さまには、「大丈夫だからね」と少しでも安心していただけるようお声をお掛けしていきます。
しかし、緊急事態となった車内は徐々にパニック状態に。
「東京から乗る飛行機がもう間に合わないよ。どうしてくれるんだ!」
「寒いし、もう帰りたい~!」
「せっかくの旅行の予定が狂っちゃったじゃない」
お客さまのイライラも頂点に達し、こんな声が聞こえてきます。車掌は車外との連絡や指令を受けているため、お客さまへの対処は私ひとりにかかっているのです。
「とにかく安心して、大丈夫です。これから助けが来てくれるし、いま手配をしていますから。それまでみんなで頑張りましよう!」
本当は私自身も不安でしょうがありませんでした。しかし、何よりもお客さまに安心していただくことが大事。私が不安そうにしていたら、お客さまのパニックは広がるばかりです。お客さまの怒りや不安を全て受け止め、少しでも落ち着いていただけるよう対応していきました。
そのうち、食糧を確保しようとお客さまがワゴンに押し寄せてきました。身体を温める温かいお茶やコーヒーも、お湯を沸かす機械が停電で使えないため、いまあるぶんしかご提供できません。私は携帯電話で会社に連絡し、
「停電でコーヒーを淹れることもできません。だからいまあるぶんのコーヒーとお湯、お客さまに無料でサービスしてもいいですか?もうそれぐらいしか、私ができることはありません」
 とお願いしました。少しでも多くのお客さまに温かいものをご提供したい。そんな気持ちからのことでした。
電話を受けた山川支店長は、
「そうだね。すぐにやってください」
 といってくださいました。冷え切った身体が少しでも温まるように。ほんのちょっとずつですが、お茶やコーヒーをお客さまたちにお配りしていったのです。
 結局、2~3時間ほどして近くの道路までバスが迎えに来ることになりました。新幹線が止まったのが山の中だったため、バスが来ているところまで雪道をズボズボと歩くことに。新幹線からすべてのお客さまが降り、私は一番最後にバスへ向かいました。
最初、新幹線のなかでは、みなさん仕事の予定や旅行の都合が狂ってしまったことで大騒ぎになっていました。しかし、次第に連帯感を持つようになり、全員がバスに乗り込んだ時には大きな拍手が沸き起こったのです。
お客さまから頭を撫でられ、「よくがんばったね」といわれた瞬間、緊張の糸が切れ、涙が溢れてきました。
「みんなには大丈夫っていってたけど、本当はどうしていいか分からなくて、不安でどうしょうもなかったんです~」
とまるで子供のように泣き出してしまいました。
緊急時にきちんと対応することができたか、少しでもお客さまの不安を取り除くことができたか・・・・。いま思い出しても、それらを完璧にできていたかはわかりません。
 ですが、その後、JRから「緊急時にお客さま安心することに努めた」ということで表彰をいただくことができました。お客さまや会社から、「よくがんばったね」と改めて言っていただいたようで、本当に嬉しい出来事でした。