第二章目指せ、つばさレディ!
◆初めて知った「働く」ということ
面接の会場には、私以外にも10人ほどの女の子がいました。それぞれが面接官から質問を受け、面接は進んでいきます。
「この子はもたなそうだな」
私は「ん?誰のことをいっているの?まさか私じゃないよね」と、どの子のことだろうと周りを見回して、あることに気付きました。
(・・・・私だけなんか違う?)
違うも違う、大違いです。なぜなら、ほかの子たちがみんなスーツで面接に来ていたなか、私だけは普段のコギャルの格好のまま。さらにはみんなは「一緒にトイレに行かない?」「一緒にご飯食べようよ」と声を掛け合っているのに、私だけがポツンとひとりでいたのですから。
面接官からしてみたら、こんな子が仕事を長く続けられるわけがないと思うのも当然でしょう。しかし、私はこのなかの誰よりも「この仕事をやりたい」と強くおもっていることにだけは自信を持っていました。それでも面接官にいわれてしまったことと、働くということへの自覚が足りなかった自分への悔しさが心に広がります。
「働くということは、格好がまず大事なんだな」
ここへきてやっと、私はそんな当たり前のことに気付いたのです。面接では通り一遍の事を聞かれ、私は「頑張ります!」とアピールすることだけ。「合格発表は電話でします」といわれ面接は終了しました。
帰りの車のなかで、「ああ、たぶんダメだべなあ」と思いながら悔し涙があふれてきました。やりたいことも見つかって、初めて「働きたい。働かせてもらいたい」と思った会社。でも会社側から「あなたは入れません」といわれてしまえばそれでおしまいです。これからのことも考えながら、暗い気持ちで家に帰りました。
しかし数日後、意外にも合格の電話が掛かってきたのです!
「おめでとうございます!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「でもね、茂木さん、条件があります」
「何でしょう?」
「まず、髪の毛の色を黒くしてきてね。あと肌の色も白く塗ってきてくれるかな」
私はコギャルの格好だけでなく、髪の毛は茶色にして日焼けサロンで肌を黒くしていたのです。改めて自分がいろいろなことに無自覚のまま、面接を受けていたことに気付きました。
「わかりました。これからよろしくお願いします!」
そうお礼をいって電話を切り、私はすぐに化粧品を買いに走りました。
会社が受け入れてくれたこと、夢だった仕事ができる喜びで胸がいっぱいで「がんばろう!やったー!」と大はしゃぎだったことを憶えています。
その日の夕食では、「久美子よー、新幹線受かったんだず」という私の話を両親はニコニコと聞いてくれていました。
このとき、私は初めて「働いてお金を貰うということ」はどういうことかを知ったのだと思います。高校生のときまでは、好きな格好ををして先生に注意されても「うるせんだず!」の一言で済ませていました。学校の規則の注意も、それを守るかどうかは自分で選んでいた。
しかし、今度は私が会社に選ばれたのです。「髪の毛は黒くしなさい」ということは、働いてお金をもらうなかのひとつ。自分で選ぶことではありません。
「これがお金を貰うっていうことなんだな」
このとき初めて、私は社会人になりました。
それまで父親や周りの大人に対して「こういう大人になりたくない」という反抗心を持っていました。しかしこのとき、口うるさいと感じていた大人からの言葉は、社会人になるために必要なことだったんだということも知ったのです。
次の日には、両親が親戚中に「久美子が就職先が決まった!アルバイトだけど、ア安心したよ」と報告していたのを憶えています。急な展開に、両親も安心したのでしょう。