【買わねぐていいんだ。】おわりにー「あなたの笑顔」に出会いたい

おわりにー「あなたの笑顔」に出会いたい

 まずは皆様にお礼をいわせてください。
 この本を何かのきっかけで読んでくださった方々。講演や研修会でお会いした方々。そして何よりも私を生み育ててくれた両親。
 ありがとうございます。

 この本のお話を頂いたときの気持ちは・・・・正直「マジ⁉」でした。
 私はただの一アテンダント。そんな自分自身のことを人生を少なからずさらけ出してしまうことに、怖さを感じたのも事実です。そのため、作り上げるまでにだいぶ時間がかかってしまいました。
 ですが、この本を作っていくなかで昔の自分をふり返ってみたり、本気でいまの自分と向き合ううちに、「私は私なんだ。やるなら等身大の自分、久美子らしい本を作ろう!」
という気持ちに変わっていきました。
 そして出来上がったのが、この本。

 タイトルは、「買わねぐていいんだ。」という、本の内容から考えるとまるで逆のものになりました。ですが、これは私のお客さまに対する本当の気持ちなのです。
 本の中にも書きましたが、常連さんはもちろん、初めてお会いしたお客さまにも「買ってくれなくていい」という気持ちをもっています。
 なぜなら、商品を買ってもらうのはあくまでお客さまと出会うための手段にすぎないと思うからです。私が本当に望むのはひとりひとりのお客さまとの出会い。そのきっかけとして「いかがですか?」とお伺いしているのであり、その結果として買っていただけるのであれば、とてもありがたいと思うのです。

 この本の後日談を少しお話ししたいと思います。
 2009年の冬から、私が企画した駅弁が山形新幹線で発売されることになりました。
きっかけは、お弁当屋さんとの意見交換会。アテンダントや上司がいろいろな駅弁を試食しながら「これおいしい」「こっちがいい」と意見を出し合うのです。
 今売り出している駅弁よりをよりよくするための会だったのですが、私はそこで「新しい駅弁を作ってみたい!」と話をしました。
 山形にはいも煮という郷土料理があります。このいも煮を炊き込みご飯のようにすれば、インパクトも大きくていいのではないかと、いろいろ意見を出しました。
 その後も、お弁当屋さんとホームで会うたびに、「一度作ってみて」「絶対うめえど思うがら!」と声を掛け続けました。味はもちろん、パッケージにもいろいろ意見を出し、お弁当屋さんと二人三脚でどうにか発売にこぎつけることができました。

 山形へ来るお客さまの中には、ゆっくりと郷土料理を食べられないサラリーマンの方などもいらっしゃると思います。「ああ、せっかく山形に来たのに、山形らしいものが何も食べられなかったなあ」というお客さまに、少しでも楽しんでいただきたい。そんな気持ちからこの駅弁は生まれました。
「もう少し、山形を味わいたい」と思われた方が、この駅弁を食べて喜んでいただければ嬉しく思います。
 始まりは私の企画でしたが、発売まで漕ぎつけたのは、お弁当屋さんはもちろん、山形支店の仲間たちの力があったからこそ。これからは、この山形支店から生まれた駅弁を、ほかのアテンダントたちと力を合わせて売っていければと思っています。

 最後に。
 本のなかにもありますが、私は小さい頃から「できる子」ではありませんでした。そして、周りの人たちにたくさんの心配や迷惑をかけて生きてきました。
 人を信じられなくて、心を閉ざしたときもありました。
 でも、そんなときに私の心の扉を開いてくれたのは、新幹線で出会うお客さまの「表情」。
 ルンルンなショッキングピンクのような顔。
 キラキラ弾ける黄色のような顔。
 ちよっと落ち込んでいるグレーのような顔・・・・・。
 たくさんの表情によって私は救われました。「笑顔は大切」とよくいいますが、作り笑顔は本当の心で笑ってはいないもの。そしてそれは、相手に伝わってしまうものです。
 だから私は、自分を救ってくれた「本当の心の表情」を見たいのです。そして、私の本当の笑顔をみなさんにあげたいと思っています。
「バック販売」や「おつりを素早く出す」のはお客さまのいろいろな表情がみたいから。ただ単純にそれだけの気持ちから始まったことなのです。
私が新幹線に乗っているのはたった3時間半。ですが、お客さまの表情は通るたびに変わっていきます。ひとりでも多くのお客さまが「この新幹線でよかった」と本当の笑顔で感じてほしいと思っています。
 そしていつか、この本を読んでくださっているあなたの笑顔を見ることができたら嬉しいなと思っています。

2010年春

茂木久美子